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「難しいね、選り好みしなければ割と有るんだが・・・」
「じゃあ取りあえず繋ぎで決めれば」
「もう若くはないんだよ。歳なんだ」
彼はパソコンを使ってイラストやデザインを作る技術職である。カメラのレンズを通して決めていた構図がパソコンに置き換えられたダケの平凡な技術職であった。芸術的な物は別にして、この人でなければ出来ないと 云うものでもなかった。この手の職人は人件費を抑える為に若手を採用した。
「じゃあ仕事はないの?」
「肉体労働ならあるよ」
「じゃあどうするの」
「一、二年は失業保険と退職金でなんとかなるが・・・」
彼はその先を詰まらせるとそのまま顔を曇らせて黙ってしまった。
綾子は朔郎と一緒に彼のアパートへ行った。六畳と四畳半のダイニングと別に風呂とトイレの付いた部屋だった。それは一七年前に佐恵子が見つけたアパートだった。
朔郎が離婚したのは会社の多くが知っていて住所も変えてい無い事も知っていた。
最初に彼の部屋を見た綾子は、本当に面倒くさいのかそれとも未練がましいのか見当がつかなかった。納得するより呆れていた 。その当時の物をそのまま使っていたからだ。一人暮らしには目障りな物まであった。
「邪魔な物が多いわね」
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