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送別会から綾子は朔郎のアパートを頻繁に訪ねる様になったが今日も泊まることなく帰った。
地下を走っていた電車は膨張して抱え切れないほどの様々な人間を抱え込んで郊外から地上に飛び出した。
それまで電車の揺れに任していた綾子は明るくなった窓の外に目をやった。閉ざされた空間が急に無限の彼方まで延びるとふっと気持ちが落ち着いた。
ーーあの人はどうしてああなのだろう。同期入社で一番親しかった狭山さんからは離婚してから精彩を失ったようだと聴いた。どんな相手だったんだろう。
『そうだなあ活発なお嬢さんって云う感じかなあ。二人は外見は正反対だけど内面は似ていた。性格は違うが性質は同じってところかなあ』
狭山さんは北村さんの奥さんをその様に言っていた。性格は違っていて、性質は同じってどう言う意味なのかしら。
綾子は無限に続くあの人の心の闇に眼を凝らした。
職安がハローワークと云う横文字に代わっているのにもあの人は馴染めない。確かに十七年の重苦しい雰囲気に比べればモダンになっている。
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