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「何だ、どうした急に昔の話を持ち出して、何を言い出すんだ」
「佐恵子と別れてからは一度も来なかったなあ、気を使ってるのか」
朔郎は離婚してからは佐恵子の事は一度も口にしなかったし狭山も禁句にしていた。それがあの日以来初めて口にして狭山は一瞬驚いた。狭山は朔郎の顔を見てすぐに悟った。
「お前、最近、奥さんと会ったなぁ」
朔郎は頷いた。
「いつ会ったんだ」
「二月ほど前だ」
「ふたつきほど前か・・・。まさかあの送別会の日じゃないだろうな」
朔郎は浮かぬ顔をして黙った。
「図星か。それであの日あんだけ荒れたのか。・・・で彼女の方から訪ねてきたのか?」
「ああ。前日の晩にアパートに電話があった」
朔郎はぶっきらぼうに言った。
そりゃあ携帯が分からなけゃあアパートに電話するわなぁと狭山は笑った。
「しかしなぜ急に彼女が電話したんだ」
「分からん」と更にぶっきらぼうになったが、急に目を曇らせて「女心は」と 付け加えた。
狭山は苦笑した。
「それっきりか。だがお前が淀屋橋に居たってことは京都の彼女の居場所を知ってるンだなあ」
「彼女、名刺を置いて行ったよ」
狭山に名刺を見せた。
「北山通りか、この店はブティックか」
「そこで働いているらしい」
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