第一章

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 狭山には朔郎が淀屋橋に居た理由を理解した。  働いているらしいかと云いながら狭山は名刺を朔郎に返した。朔郎は難しい顔で受け取った。 「狭山、実ははっきり言おう。そのあと一週間後に会いに行ってしまった、それから会ってない」 「なぜそれっきりにしたのだ」 「昔の彼女じゃなかった」 「嘘をつけ。あの人が変わる訳がない」  朔郎は薄笑いを浮かべた。 「つまらん男の意地さ」  それで十七年も無駄にしたか、本当につまらん奴だと云って狭山は時計を見た。会社へ戻らないとやばい時間になっていた。 別れた妻の事はお前だけの胸に納めておいてくれと約束させてその日は狭山と別れた。  辞めた会社は淀屋橋から心斎橋に向かう御堂筋沿いに在り、イラストやデザイン、イベントの企画も手掛けていた。  佐恵子は朔郎の写真以外に図案のセンスに目を付け、図案の仕事を伸ばす為に朔郎にこの会社を勧めた。今は仕事の大半を パソコンでやっていた。朔郎が パソコンで製作するようになると構成や色彩感覚にそれほど神経を注がなくなった。  狭山は制作部門でなく注文や打ち合わせ等の外商部門だった。会社は地下鉄御堂筋線乗り換えて二駅だが少し淀屋橋方面に戻る。     
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