第一章

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 あの頃は行動力があって後から理屈が付いて来た。今は物事に慎重になる、と云えば聞こえが良いが要は億劫になった。だが話題は豊富だった。  裕子は某会社の受付嬢をやっている。三人が交代制で一人は二十歳そこそこのギャルでもう一人は四十に手が届くおばさんだ。彼女もそのおばさんのグループに入っていた。  その娘が受け付けの時は用もないのに男どもがうろつき、あたしの時は静寂過ぎて裕子には面白くなかった。時には裕子にその若い娘とのデートの仲立ちを頼む油のギラついた中年の男まで現れる。 「あの連中奥さんも子供も居るのになに考えてんのだろう」  裕子は普段の鬱憤を一通り綾子に聴いてもらってから話題を変えた。今度は結婚すると言い出した。綾子には前の続きの様に聞き流した。 「そう結婚するの・・・。いいわね」  そう云うと綾子は幸せそうな裕子から目をそらして淀川に目を移した。  淀川にはビルの谷間から射し込む夕陽を浴びて渋い褐色の朱に染まる。川面のさざ波が川一面に魚の鱗の様に輝かせていた。  裕子は思い口調の綾子を眺めた。 「綾子、北村さんとはどうなの」     
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