第一章

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 裕子は今の会社に入ってから北村に気に掛けている綾子を見ていた。だが綾子にとって北村にはときめきが有った訳でもなく、まして熱烈な恋を抱いたものでもなく、また冷たい関係でもなかった。要はこの歳になると相手を冷静に見られた。だが二ヶ月前の送別会から二人の間は大きく変化していた。 「どうって?」 「綾子はさっきあたしが結婚するって言ったらひとごとみたいに聴いていたわね」  ひとごと、そう云えば北村とは母性本能だけで綾子にはなぜここまであの人に振り回されるのか解らない。 「まあ、綾子も無理もないか、あの人は掴みどころのない人だから」 「結婚か・・・」  綾子はため息交じりに言った。 「やはり考えてないのね。私がさっき結婚するって言った時の綾子の言葉、あまり実感がこもってなかったもんね」 「そうじゃないの」  否定はしたが男女の恋の目的が結婚にあるなら、北村との恋は無駄な恋なのか。じゃあ無駄な恋って何なのだろう。  綾子にはアバタもえくぼに見えた時代はとっくに過ぎていた。それどころか悪い所も直視し、良い所も気に入らなくなっている。要は人の目を気にしなくなった。それでも手間の掛からない恋なら良いかって思うほど男女の仲は簡単でもなかった。 「そうじゃないのよ。確かに裕子が言う様に掴み所のない人だけど。そんな相手を理詰めで考えても割り切れない。でも恋は理屈でもないから。だが辛くて苦しい・・・。でも何か切っ掛けがあれば決断出来そう」     
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