第一章

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 ふたりは心斎橋から地下鉄御堂筋線に乗った。三つ目の駅が梅田である。結局ふたりは話らしい話も、約束もせず梅田で別れた。    朔郎は駅前の雑踏を抜けて御堂筋から東通り商店街を曲がり、中程にあるチェーン店の居酒屋に入った。時計は七時を少し回っていた。  やばいなあと思いながら店員に案内された部屋に到着した。二十人でいっぱいになる小部屋の座敷の流しテーブルにはみんな揃って座っていた。一番奥の上座だけが空いていた。 みんなは彼を見るなり拍手や野次を送り奥の空席を示した。一番に会社を出た人間が一番後に来るなんて。  何処へ行っていたのですか、随分遠回りして来たなあ、どっか寄り道でもして来たんか。と彼が一番奥の席に着くまで上司や同僚、後輩の野次と果ては女子事務員のひそひそ声までも鳴り止まなかった。  彼が着席して上司の一声でやっと静まり返った。おっせいかいな同僚が僭越ながらと司会の様な役どころを勝手に彼の送別会が始まった。  司会から指名された上司は北村朔郎との関わりと、形ばかりの贈る言葉をもったいぶって演説していた。  退屈な朔郎は神妙な格好で聴き入る会社の連中を眺め回した。同期入社で一番仲のよい狭山(さやま)と目線が合った。      
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