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狭山は愛嬌たっぷりに眼だけで何かを言っているようだった。朔郎も色々と仕草を変えながら相手をしていた。みんなは見て見ない振りをしていた。知らないのは立って挨拶している上司だけだった。
端にいる綾子(あやこ)だけは二人のやり取りから込み上げる笑いを堪えながら見ていた。それに気が付いた朔郎が彼女にもシグナルを送ったところで上司の挨拶が終わり乾杯となった。
ビールの栓があちこちで抜かれ、コップに注ぎ合って乾杯となり、後は各自バラバラに雑談が始まった。
朔郎は綾子を見ながら「あの子は色々と世話を焼いてくれたがいまいちかなぁ」と呟きながらビールを空けた。待っていましたとばかりに隣の片山がビールを注いだ。
「北村さんどうするんですか」
「片山は幾つだったっけ?」
「二十一です」
「二十一か、若いなあ、羨ましい。俺は丁度お前の歳に一度結婚したんだよなあ」
「話によりますと十何年前に離婚されて今も独身だそうですね」
「十七年前だよ」
しかし俺はその女とさっき会ってたんだよなあと口の中で呟いてビールを一気に空けた。片山は奥からの黄色い声に誘われて行ってしまった。
すると待っていたように司会を買って出た二宮がビールを勧めにやって来た。
彼は英断ですねと言ってからその歳での再就職を心配してくれた。そして上司が来て、今度の転勤拒否は遺憾だと小言を並べた。
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