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彼の耳には宴会のざわめきが耳鳴りのように聞こえて頭も痛み出して横になった。
宴会の終わりかけに朔郎は起こされて「北村さんお水よ」と言う綾子の声で彼は半身を起こした。
ーー酔いながらもイヤな者はイヤだと言える君が羨ましいと羨望の眼差しで言うものもいた。その歳で行くとこないぞと心配してくれる奴もいた。だが誰の言葉も心地良い酔いの中に消えていった。
お開きの後は見かねた綾子が看病しながら彼のアパートまで送ってくれた。
九月に入っても今年の夏は暑かった。冷房を節約していたので余計に暑い。開け放たれた窓からは一向に風が吹いて来なかった。
ダイニングテーブルに両肘をついて気怠さの中で朔郎は先ほどから隅の電話とにらめっこしていた。彼は意を決して受話器を取って電話した。
「求人情報誌を見て電話したのですが・・・」
「ああそうではすか失礼ですがお幾つですか?」
「四十二です」
歯切れ良い電話の声に朔郎は安堵して歳を言った。
「ああそうですか」
電話の相手は急に声をトーンダウンした。彼は急に不安になった。
「年齢はそこに書いてあるとおりうちは若い人しか採らないんですよ」
「若いと言うと幾つまでですか?」
何度かの問い合わせの後にささやかな抵抗を試みた。
「良いところ三十代ですね」
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