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ハハっと笑うと、徹は『ようするにオレと同じだ』と言った。
『この世界、別嬪なツラぁ下げて生きてるだけでロクな目に遭わねぇ。だから、了。多分、あの人は要らぬ苦労をたくさんするだろう。お前にはその時、オレの代わりに傍で支えてやってほしいんだ』
徹の――――今となっては遺言になってしまった言葉に、了は確かに頷いた。
『分ったよ。オレも、天黄の親分さんには心底惚れてるんだ。恩を返すためにも、高校卒業したら盃を貰って、天黄組に入って研鑽を積んで――そうしてから、その御堂聖さんって人の付き人にしてもらえるよう頼んでみるよ』
しかし、予想に反し、真壁了は盃事を執り行うより前に、天黄正弘直々に勅命を下されたのだ。
『小僧が、使える男を回してくれって頼んできやがったぜぃ。おめぇは若いし、ツラも良い。小僧は、今は芸能事務所の社長をやってるからなぁ――――厳つい筋モンをやったら迷惑だろう。だからお前ぇ、一丁ぉ行って助けてやりな』
(えっ―――? )
と、思ったが、組長直々のお達しだ。
それに、兄の遺言も守れる。
そう思い直し、了は二つ返事で『わかりました。必ずお役に立ってみせます』と、頷いたのだが――……。
◇
力を失った聖の身体を抱え、真壁了は車を運転して聖の自宅マンションへ向かった。
先週から秘書を務めるようになった了には、聖のマンションの合鍵が渡されている。
車を運転しながら、了は先程の史郎とのやり取りを思い出し、チッと舌打ちをした。
(まったく! あいつ、何様のつもりだ!! いくら本家筋の若頭にしたって、他所の家の人間を、ここまで自由勝手に扱って許されると思っているのか!? )
この美しい、了の新しい主人は、天黄組で盃を受けた立派な極道だ。
かつて、天黄組が乗っ取りに遭いそうになった際、組長の為に独り身体を張り、自ら人身御供に進み出た男の中の男――――兄は、そう褒め讃えていた。
兄の徹が心底惚れ込んだ、極道の鏡だ。
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