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兄の徹が、最期に託した願いは『御堂聖の力になってやれ』だった。
何でも、件の人物は、組長の為に進んで人身御供になるほどの、気合の入った男らしい。
徹は、いかに御堂聖が、崇高で高潔な人物なのかを了へ滔々と語った。
そして、彼は誰よりも美しい――――とも、言った。
『オレが初めて御堂聖に出会ったのは、彼がまだ十六になったばかりの冬だった。でも、彼はオレよりよっぽど年下なのに、しっかりと肝が据わっていて只者じゃあなかったよ。関西のヤクザに人質に取られてたんだが、全然相手に阿るような真似もしないで、そりゃあ立派な態度だった。しかし、そのせいであの人は大分酷い目に遭ってな……オレは何とか力になってやりたくて、一肌脱ぐことにしたんだ』
そして、徹は組長の盾になって負傷してしまった。
『なんとか、御堂の力になってやりたかったんだが――こんな身体じゃあ、オレはお荷物にしかならねぇ。それが悔しくて伊豆の保養所で燻っていたら、御堂はわざわざオレの元を訪ねて来てくれたんだ』
そして、御堂聖は深く頭を下げて、徹に謝意と感謝を伝えてくれた。
なんて、義理堅い人物なんだろうと思った。
昔気質の極道は姿を消し、ただの金儲けヤクザに成り果てている世の中にあって、これだけ筋を通す男はそういない。
組長を親分と慕い、我が身も顧みず自ら人身御供になる者など、もはやどこにもいないだろう。
そんな中で、この生き様は潔いが――――長くは生きられぬ。
いずれその命は、華麗な花火のように短く散ってしまうかもしれない。
そう、思った。
『それに何より、御堂は綺麗なんだ。オレは、あんなに綺麗な男を見た事はない』
『おい、兄貴……義姉さんに聞かれたらヤバイんじゃないのか?』
軽く冗談交じりに言うと、徹は真剣な顔で言葉を紡ぐ。
『あいつも、それは認めて納得してるよ。第一、加奈子は御堂に惚れている』
『えぇ!? 』
『いや……惚れてるっていうか、つまりファンなんだな』
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