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跡取りを設ける都合もある為に、妻と愛人を幾人も侍らせているが、史郎は彼女達にはそれ程興味を示さず、ただただ聖を、飢えたように渇望しているらしい。
対して、聖の方は、史郎はただの欲望に飢えたバケモノのように思っているようだ。
そんな二人の付き合いは長いが、そこには一切、愛だの恋だのといった甘い感情は育っていない。
史郎は、事ある毎に聖を痛めつけては、破壊するように欲望をぶちまけ、聖の方は、それにひたすら嫌悪と憎悪を募らせている。
力づくで我が物にしようとする史郎と、それを唾棄する聖。
双方の溝は、どんどん深くなっているようだ。
その状況に、ますます史郎の方はジレンマに陥り、組通しの約束で、囲い者から解放されたはずの聖を、再び手繰り寄せようと無理強いをして――――結果、聖に、より一層嫌われている。
(聖さん――)
了は、思った。
もしかしたら、この双方のすれ違いは、ボタンの最初を掛け直せばいいだけの話で、とてもに簡単に直るのかもしれない、と。
色々問題があるが、何にせよ史郎の気持ちは本物だ。
それを進言したらいいものか、あえて無言を貫いた方がいいのか。
――――聖の身を考えれば、進言した方がいいのかもしれない。
だが、何故か了はそれを躊躇っている。
その理由は、自分でもよく分からない。
…………分からないように、していた。
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