2

5/5
445人が本棚に入れています
本棚に追加
/254ページ
 跡取りを設ける都合もある為に、妻と愛人を幾人も侍らせているが、史郎は彼女達にはそれ程興味を示さず、ただただ聖を、飢えたように渇望しているらしい。  対して、聖の方は、史郎はただの欲望に飢えたバケモノのように思っているようだ。  そんな二人の付き合いは長いが、そこには一切、愛だの恋だのといった甘い感情は育っていない。  史郎は、事ある毎に聖を痛めつけては、破壊するように欲望をぶちまけ、聖の方は、それにひたすら嫌悪と憎悪を募らせている。  力づくで我が物にしようとする史郎と、それを唾棄する聖。  双方の溝は、どんどん深くなっているようだ。  その状況に、ますます史郎の方はジレンマに陥り、組通しの約束で、囲い者から解放されたはずの聖を、再び手繰り寄せようと無理強いをして――――結果、聖に、より一層嫌われている。 (聖さん――)  了は、思った。  もしかしたら、この双方のすれ違いは、ボタンの最初を掛け直せばいいだけの話で、とてもに簡単に直るのかもしれない、と。  色々問題があるが、何にせよ史郎の気持ちは本物だ。  それ(・・・)を進言したらいいものか、あえて無言を貫いた方がいいのか。 ――――聖の身を考えれば、進言した方がいいのかもしれない。  だが、何故か了はそれを躊躇っている。  その理由は、自分でもよく分からない。 …………分からないように、していた。
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!