ナツイロ。

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ナツイロ。

 早朝だというのに空は色を濃くした青で、今日も暑い一日になることを教えていた。  都築(つづき)光多(こうた)は自転車のペダルに思い切り体重をかけると勢いをつけて漕ぎ始めた。  瞬く間にスピードに乗り景色がどんどん移り変わっていく。  背中に担いだ荷物が振動とともに揺れ、ガシャガシャと音を立てた。  一度も染めたことのない黒髪が風になびく。意志の強そうな瞳は夏の日差しを浴びて黒く輝いた。 「あちー」  高台から長く急な坂を、一息に駆け下りていく。眼下に広がる穏やかな海がキラキラと太陽を反射していた。  スピードを緩めないまま坂を下りぬけ、ぐいんと曲がり角を曲がる。 「こーちゃんおはよう!」 「おはよう、ばーちゃん」  玄関の前に打ち水をしていたおばあちゃんの小さな姿はすぐに後ろへと流れていった。  海と山しかない田舎にはいつも潮の匂いが満ちていた。車も少なく、年寄りの多いこの地域には若者の数は少ない。  ちょっと外を歩けはほとんど知り合いという狭いコミュニティーを嫌うクラスメイトも多いけど、光多はこんな田舎が好きだった。    生まれた時から同じメンバーでひたすら進学を繰り返す気安さが光多を安心させる。  さすがに高校に上がると都会に出ていこうとする友達もいたけど、光多はこのままここに暮らしたいと思っていた。
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