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「うんまいよ」
「まじで?やった。いっぱい食べろよなー」
男子高校生の手のひらで握られた大きなおにぎりもペロリとなくなってしまった。水筒の冷えたお茶を差し出すと宮野は嬉しそうに受け取り「まじでかーちゃんみたい」と笑う。
「かーちゃん言うな」
「だってさー。こんなに気配り上手な男って珍しくない?付きあったらマメで幸せそう」
「幸せにするよー俺は」
光多が胸を張ると一瞬宮野は真顔に戻り、無言で釣り竿に手を伸ばした。
「みゃーちゃん?」
「あーごめ、なんか引いたかなって」
リールを巻き始めた宮野の隣に並び海面を覗く。スルスルと海底から戻ってきた針の先には何もかかってはいなかった。
「全然だめだー」
「調子悪いね」
「なんかなー今日はダメかも」
小さく息を吐きながら餌をつけ、もう一度竿を投げる。ヒュっと空を切る音がすると遠い海面に輪のさざ波を放ち、それは落ちて沈んでいった。
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