魚群探知機

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 もう何十年も前だなあ。勿論昭和の頃さ。その頃俺は小型のトロール漁船に乗ってた。大体日本の沖合で操業して、港を出てから一週間から十日程度で帰ってくるような船だった。  船長は大ベテランで俺よりずっと年上だったけど、とっても冷静で温厚な人でね。怒ったの見たこと無いんだ。本当、荒っぽい船の世界で、あんなに穏やかな人は、後にも先にも見たことない。一回「船長って、なんでそんなにいい人なんですか?」って聞いてみたのよ。  そしたら、一瞬照れたような顔して「俺、そんなにいい人かね?」とか言うわけさ。  で、俺が「そうですよ。船長みたいに優しい人、海の世界で見たことないですよ」って言ったんだよ。そしたら妙に神妙な顔になっちゃってね。 「……海の上では優しくしなきゃな……」ってぽつりと言った。「何ですか?」って重ねて聞いたけどそれ以上は説明してくれなかったな。まあ、その話はそれっきりで、いつも通りの船長に戻っていった。  あの頃は魚も沢山いてね。大体いつも大漁だった。毎回出港するのが楽しみなくらいだった。暫く陸を拝めないけど、何か月も日本に戻れない遠洋漁業の連中に比べれば全然ましさ。今言ったように船長も温厚だから、自然と船の雰囲気も良くなる。気の合う仲間にも恵まれて、本当に陸にいるより楽しいくらいだった。     
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