憐情の人

ママ

　かつて歌舞伎町で名を馳せた静ママには，佳代(かよ)というパートナーがいた。佳代は上野で「Queen」というゲイバーを経営していたが，お互いにビジネスで頼ることはせずそれぞれが完全に独立していた。

　佳代はかつて歌舞伎町で有名なホストだったが，子供の頃から自身の性に疑問をもち，ホストで稼いだ金で性別を変える以外のありとあらゆる整形手術を受けた。

　佳代のこだわりは，親にもらったこの身体にどんなにメスを入れようとも，神様が間違えて与えた性別はそのまま受け入れて生きてゆくことだった。それは佳代にとって耐えがたい屈辱であると同時に，神様に対する反発でもあった。

　しかし，整形手術を繰り返すうちに完全に別人になった佳代は，ホストとして客が取れなくなり本格的にゲイの世界で生きていくことを決めた。

　それ以来，自分の庭だった歌舞伎町には脚を踏み入れることをやめ，上野に移り「Queen」の佳代ママとして生きてきた。

　静ママとの出会いは一部の人間以外誰も知らないが，気が付けば静ママと佳代ママはゲイの世界では有名なカップルになっていた。

　二人とも今時のメディアに露出をしている派手な化粧をしているゲイやドラァグクイーンではなく，必要なこと以外は一切しゃべらない，メイクも最低限しかしない，ノンケや一般人から注目されることを嫌うタイプだった。

　静も佳代も新宿を捨てた日から，とくに人目を避けできるだけ目立たぬように生きてきたようにも見えた。