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ネットの世界では静の過去の男たちの死因や事件についても徹底的に報じられたが,もはや静本人ですら知らないようなことばかりで,なにが事実かもわからなくなっていった。
そして美也子のことまで特定され,病気についてまで拡散されたことを知りこれまで感じたことのない殺意と怒りが静を蝕んでいった。
「どこのどいつが美也ちゃんのことを……あの子は関係ないのに……」
弁護士を通じて美也子を守ろうとしたが,もはや静とその関係者を守ろうとする人間は歌舞伎町にもおらず完全に孤立していた。
「私はすべてを憎む。私の本当に大切な人以外,すべての人を憎み,すべての大人達を憎みます。たとえ私の身体が朽果てようとも,私のこの憎しみは怨念となってでも決して消え去ることなく,私達を馬鹿にして,虐めた者達の子々孫々まで永遠に消えることはない。私の存在が少しでも誰かの記憶に残る限り,私の憎しみも残り続けます」
弁護士にそう伝えると,それ以降静は誰とも会話をせずに言葉を発することを拒絶した。
ウェブニュースでは事件の猟奇性により,静の事件は世間の好奇心を呼び注目を引くこととなり,マスメディアも現代版の阿部定と騒ぎ立てネットに押された地上波でも積極的に取り上げた。
静は「世間から変態,変態と言われるのが納得できない」と逮捕直後からもらしていたが留置所の中からはどんなニュースが世間を騒がせているのか,自分のことをなんて書かれているのかもわからず反論のしようがなかった。
その後,世間が静のことを忘れたころに新聞社に宛てた一通の手記が新聞の一面を飾り,久しぶりにネットではなく紙の新聞の売り上げが伸びた。
以下,手記の一部を抜粋して掲載する〔原文ママ〕。
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