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「はぁっ……はぁ……げほっ! はぁ……」
サリエが息を切らして立ち止まった頃には、施設から一キロ以上離れていた。
運の良いことに、牢屋近くの出口には監視カメラが設置されておらず、施設内に脱走者を知らせる警報ベルが鳴らなかった。大人達に見つからなかったのはほぼ奇跡。サリエは初めて脱走に成功した。
ずっと林の中をがむしゃらに走ってきたが、ようやく林を抜けて足を止めた。明るい場所に出て、視界が広がる。
――そこから見える景色は、目を奪うものだった。
「わ……すっごく綺麗な街」
色鮮やかな建物が立ち並び、舗装されたアスファルトの道を、人々や車がひっきりなしに往来する。澄んだ空気が体内に染み渡り、サリエの荒い呼吸は次第に落ち着いていく。
目の前に広がる、お洒落で清潔感のある街並みは――いわば楽園のようだった。
想像をはるかに上回る景観に感動しながら、ゆっくり歩き出す。
「施設の外にはこんな場所があったんだぁ……」
思わず感嘆の声をあげるサリエ。同じフェリチタ内でもここまで違う世界があることに驚く。
まるで理想郷だった。
レンガ造りの三角屋根の建物だったり、丸い屋根の洋館のような建物だったり。それぞれが、個々として存在を主張している。
サリエが見たことのないもので溢れ返っていた。だから余計に胸が高鳴ってわくわくしながら歩く。
自動車の邪魔にならないように道の端を歩きながら、立ち並ぶ店を眺めて歩いていた。
――が、そのとき、突如クラクションが鳴り響く。
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