召喚特典と世界間差異

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「ムリムリムリムリ! 早すぎるわあんなん!」 全力疾走している俺の背後スレスレに飛来し続ける間髪の無さ。スタミナ、もとい魔素切れを考慮した攻撃ペースとは思えない。 放たれた水球の数も三十は越えているだろうか。これはあいつの標準的な攻撃と考えた方がいい。 であるならば、やはりここは身を隠すのが第一だ。 より一層気合を引き締め、俺は走りに専念した。竜の姿は視界の端に納めつつ、全速力で駆ける。 心無しか、背中の方で響く爆音が遠ざかったような気がする。 木々の中から突き出ている、さっき探索した診療所のような施設の三階部分を目に捉える。今いる場所からそう遠くない。もう少しだ。 ごく僅かな間とはいえ、精魂込めた全力疾走は、俺の体力を全力にふさわしい速さで奪っていった。 だが、この調子ならギリギリ間に合う。一度森の中に入ってしまえば、あの水性生物の体だ。木々を分け入ってまで追いかけてくることはないだろう。あとはほとぼりが冷めるまで、あの施設の三階から様子を見張っていればいい。 そう確信した俺は、額を流れる汗もそのままにスピードを緩めることなく走った。 地球にいた頃では考えられないような集中力だったかもしれない。 強いて言うなら、ルナちゃんのコールのタイミングを暗記するときや、グッズ保管のためのスペース確保や加工に苦心しているときくらいか……あれ、結構あるな。 なんてことを考えていたから、俺は全く気付かなかった。視界の隅に『その光景』を認識しているにもかかわらず。
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