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ほんの少し耳を澄ましていれば、背後で絶え間なく炸裂していた水球の音が聞こえなくなっていたことに気付いたかもしれない。
ほんの少し目を向けていれば、首長竜が新たな攻撃を繰り出す準備をしていることに気付いたかもしれない。
そして、竜の額を注視していれば。
奴の額で発光する水晶のような物体に……湖水全体から魔素を吸い上げて吸収する、正四面体のような形の……魔晶がそこにあることに、気付けたかもしれない。
だが、俺はその全てに気付くのが遅すぎた。
施設のある斜面の前まで辿り着き、急ぎ林の中へ方向転換しようとした俺を、首長竜の魔晶が放つ光が包む。
明らかな異常事態に竜に向き直る俺。そこで初めて竜が水球を放たなくなっていたこと、竜の額に吸い込まれる魔素、魔素を取り込む水晶の存在に気付く。
(まさか、アレがましょ――)
そこまで思考した直後、首長竜が首を前に突き出し、口を大きく開いた。
同時に、竜の口腔から、絶大な量の水が一本の巨大な柱となって撃ち出される。
水柱は一個の意志を持った塊のごとく俺へ飛来し、たやすく俺の全身を包み込んだ。
強い衝撃を擁する勢いそのまま、怒涛の奔流は施設の壁を打ち砕き、俺の視界は暗転した。
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