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「いったい誰が、何のためにこんなもの……」
階下にあったカルテらしき資料のこともある。これはこちらの世界での医療機器で、やはりここは病院かそれに類する施設なのか? とするなら放置されている意味も、こんな山中に建てる意味も、更にはビル風の構造で建てる意味も分からないが……
いや待てよ。この部屋鍵かかってたよな。他の部屋は開いてたのに。
ってことは、放置と言うより、閉鎖?
この部屋には、閉鎖するほどの何かがある?
言い知れぬ不安感がよぎり、思わず部屋の奥を睨んだ。大破したモニターのある壁。その横に空いた穴から覗く木々の枝葉。床に散乱する瓦礫と動かない魔法装置。
そして、装置の陰に淡く滲むおぼろげな光。
目を見開いた。
そして唐突に理解した。アレがこの部屋の『何か』だ。
光は本当に弱々しい輝きで、ひときわ背の高い機器の後ろで発光していたためか、近付くまでは気が付かなかった。
今俺のいる位置は、機器の発光している部分の真横の延長線上。肝心の光っているところが見えない。
先ほどの不安感と一層の緊張を身に帯び、俺は機器の輝きの前に乗り出した。
――そして一瞬、生まれた故郷の冬を思い出した。
いやもちろんここは冬ではない。視界に広がった光景が、冬を連想させるほどに『白』一色だったからだ。
そこには巨大な縦型のカプセルがあった。差し渡し二メートル以上はあるかもしれない。背の高い機器はこのカプセルの一部で、おそらく操作をするための本体部と思われる。光を発しているのはカプセルと、本体部のランプだった。
そのカプセルの中には、一人の少女の姿があった。
年齢は、俺より少し下……十代になったばかりといったくらいだろうか? どんな仕組みなのか、ほんの少しカプセル内部の中空に浮かんでいる。
故郷の雪を思わせるような曇りのない長い銀髪。透き通った白磁の陶器のような肌。
都会の雑踏の中でも、その場の誰もが目を奪われてしまうような、言葉を失うほどに整った造形の少女だった。
流石の俺も、刹那の間その美しさに呆然自失としていたが、彼女が衣服の類いを一切何にも身に着けていないことに気付き、再び刹那の速さで正気を取り戻した。首長竜のビームもかくやと言わんばかりの速度で、眼前の刺激物に背を向ける。
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