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「このオルゴールはね。あるこども病院の遺体安置所に置かれてたものなんだ。このオルゴールの持ち主の女の子のお願いでね。…もうその女の子は亡くなってるんだけど、とてもやさしい子だったそうだよ。入院している子供たちのお姉ちゃん的な存在だったそうなんだ。自分は余命まで宣告されていたのを知っていたにも関わらず、他の入院してる子供たちを、自分が亡くなる最後の最後まで励ましてたんだって。…その女の子が亡くなる前にね。院長にお願いをしたそうだよ。『もし、私が死んでしまっても、ここの子たちが怖がらずに旅立てるように、このオルゴールを安置所に置いて鳴らしてあげてください。怖がらないように、迷子にならないように、わたしが手をひいて守ってあげたいから。』ってね。」
……哀しくて、言葉にならなかった。
ただただ泣けてきて、申しわけなかった。
自分の力の無さに、なにもしてあげられないことが、情けなくて。
「フェンちゃんには見えただろう?
あの子たちがどんな場所に居るのかが。……怖かっただろう? 淋しくて苦しかっただろう? それが本当なんだよ。死んでしまったら、ずっとそのまんまなんだよ? その女の子は分かってたんだろうね。どれだけ怖くて淋しくて苦しい場所なのかって。だから、少しでも和らげてあげようと、安置所にオルゴールを置こうと想ったんだ。他の子たちを導いてあげるために。」
…あれは、死後の世界。
広大で、暗くて、果てしない、淋しさ。
子供たちがあんなところで、たったひとりきりなんて…大人でも、聖人でも、とてもじゃないけど耐えられない。
「預かる前には、もう音が鳴らなくなっていたんだよ。ほら。蓋を開けて見て?」
俺はおそるおそる蓋を開いた。
よく見ると、シリンダーにあるはずのドットが無い。
櫛歯の弁を引っかけて音を鳴らす為のドットが、磨耗してしまって無くなっていた。
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