第1章

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 母の快癒祈願に神社に行った。  母が倒れてもう三ヶ月、それまでにも親類や母の友人達が何度も見舞ってくれているが、母の容態は芳しくない。  会話は成立するものの、身体と同時に心も弱っているようで、みているだけしかできないのも、つらいのだ。  そんな中で、ネットの知人が教えてくれた、病気治癒に御利益があるという神社。決して大きくはないが、佇まいはそのぶん閑静で、なんだかここなら確かに、と言う気がする。  なんというか、空気が澄んでいるのだ。明らかに、他の場所とは違うというかんじで、心地が良い。  手水舎で手を清め、それから本殿に向かって二礼二拍一礼。  私は一心不乱に、健康を、快癒を願う。  無論、こんな事が気休めに過ぎないのは判っている。それでも神にすがりつきたくなるのは、日本人だからなのだろうか。    風が髪を弄ぶ。  その風に紛れて、なにごとか声が聞こえたような気がした。 「たすけてほしいかい?」  こう聞こえた、気がした。  次の瞬間、私は訳も分からず頷いていた。  だって、たった一人の母なのだ。  助けて欲しいと言って、何がおかしいのだろう?      ――翌日、母は急に体調を崩し、集中治療室に入ることとなった。  本当に急変で、私もわけが分からなかった。  昨日のあの声はなんだったのか。やはりただの空耳だったのか。  おろおろと母のための荷物をつくって、病院に運ぶ。  私はそのまま、待合室のソファで寝込んでしまった。      ここ最近、体調は確かに余りよくはなかった。  でも私も入院することになるなんて。ねんのために私自身、検査入院をしたら、私も病魔に冒されていることが判明した。 「まだ若いから、早めに見つかって良かったですよ」  そう、担当医は告げる。  ……その声は、神社で聞いた風の声に、似ている気がした。
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