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運転をやり続けてもう30年になるだろうか。
私の住むところは田舎と都会の中間みたいな場所で、割りと便利な町ではあるが車がないと少し不便でもある。その上私の仕事上あっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しいもんだから車が手放せない。隠すことでもないから言うと、私の仕事はライターで主に地域の飲食店について書いている。
今日は最近できたばかりのこじゃれたカフェに行った。
8時開店で今はそれから5分ほどしか経っていないためか客は私だけだった。
店長おすすめだというブレンドコーヒーを啜っていると、そこの数少ない従業員の田中君が気さくに話しかけてくれた。
この従業員の気さくさと言うのは案外大事なもので、特にこういった地方で個人営業の飲食店なんかだと一概には言えないが客入りに大きく影響したりする。
仕事は大丈夫なのかと問えば、彼はテーブルでも拭いとくんでと愛嬌のある笑顔で答えた。
田中君の話によると、上京先の居酒屋で5年間バイトをしていたらしい。それからバイトの話で少し盛り上がると、再び田中君が話題を変えた。
「そういえば…あなたの車って何ですか?」
唐突な質問にたじろぎながらも社名と色、つまりネイビーだと答えた。なんでも田中君は最近車を買ったばかりで、まわりの車が気になってしまうんだそうだ。照れながら言う彼に、自分も昔は買い換えたばかりは浮かれたもんだと思い出した。
彼は続けた。
「ずっとペーパーだったんで初心者マーク付けてんですけど、このシールがちょっと恥ずかしくて…でもちゃんと貼っとかないと危ないっすよね。」
少し照れながら言った言葉にも懐かしさを覚えるとともに、若い頃苦い記憶が思い出された。
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