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あれは私が運転を始めて間もない頃、大学卒業後すぐの22・3の歳だったか。
18で免許を取ってからずっとペーパードライバーなるものであったが、遂にこつこつ貯めた貯金をはたいて中古車を3年ローンで買ったのだ。
しかし私は初心者マークなんてものは貼らなかった。一番大きいのはまわりにダサいという認識があり、私自身ダサいと思っていたからである。
その日私は、無事会社勤めが始まった記念にと大学の学科同期の友人ら5人でドライブに出掛けたのだ。天気のよい日曜日のことだった。車は友人の一人の吉川のであった。やつの新車は何故か6人乗りのファミリーカーで、全員が乗り込めたからである。無論運転も吉川にやってもらった。吉川と私を除く3人がまだペーパードライバーで、私の方もつい3日前に脱したばかりだっのだ。吉川も吉川で免許取得は私たちと同じ18だったが、車を買って乗り始めたのは半年ほど前からだという。しかし自分の車に何かあっては嫌だと吉川自ら運転を申し出た。
「なぁ、お前初心者マーク付けなくていいんかよ。」
5人の中で一番真面目な中村が言った。
「ばっかお前んなのだせーから付けねぇよ。それに免許取ってから5年も経ってんだぜ。」
「中村は10年くらいシール貼ってるタイプだな。」
これは私が言ったものである。シールなんて18か19の子供が貼るものだと思っていたもんだから、あんまりにも真面目な発言をからかったのだ。しかし中村も所詮この中で一番真面目というだけだ。最後まで押し通すこともなく、俺だって貼らねぇよなんて言いながら意見を引っ込めた。
今思うと、本当はあいつは私たちに"合わせていた"だけだったのかもしれない。中村の俯いた姿を思い出す。
もっとも…ことの真偽はもうわからないが。
街道沿いから県境を跨ぐわりと長いドライブだった。
スポーツカーじゃないため思いきり気持ちいい潮風に当たることは出来なかったが、途中で海辺のカフェレストランで昼食をとるなど、なかなか楽しいものであった。
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