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「そんなに辛いんすか? よし、俺達もいただこう……ズズ…」
「…うわっ辛っ! でも、けっこうイケますよ、これ。ズズ…」
大袈裟に冗談で倒れただけとでも思っているのか? 死にゆく俺にはまるで気づかず、暢気なことにも部下達はアラビアータ風になったボロネーゼを和気あいあいと堪能し始めている。
……ま、パスタを前にしたら致し方ないか。むしろ、それでこそ真のイタリア人である。国家だの、民族だのを大仰に語る輩よりも、はるかに我が愛する祖国イタリアの同胞として共感できる。
こんな間抜けな死に方も、イタリア人としては悪くないのかもしれない……パスタのせいで死んだなんて、いかにもラテン系といった感じで、今後ずっと語り継がれる良い話のタネになるではないか。
これぞ、イタリア人の心意気、イタリア男子の生き様である。
俺は自分の死についてそう納得すると、その顔に微笑みを湛えてゆっくりと瞳を閉じた。
(伊魂 了)
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