伊魂(イタマシ)

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「隊長~っ! こんなものがありました~っ! ドイツのやつら、俺達の食糧をがめてやがったんだ!」  加えて、とてもささやかではあるが、この戦場においては大変にうれしい出来事がさらに俺達を待っていた。  部下の一人が、テントの焼け跡から乾燥パスタの束とボロネーゼ風ソースの缶詰を見つけたのだ。  おそらくはドイツ軍がイタリア領内で現地徴収し、食糧として携帯していたものだろう。彼の言う通り、俺達義勇軍の所にまでは回って来てないというのに、自分達だけズルい感はなんとも否めないが、ともかくも、そのおかげで久々に祖国の味が楽しめるのだ。  俺達は焼け跡から鍋も拾い出し、早速、スパゲッティタイプのパスタを茹でて皆で食することにした。 「じゃ、先ずは隊長の責務として、俺が味見をしてやろう……主よ、この恵に感謝いたします……チュルっ…」  久しぶりのパスタを前にもう待ち切れなかった俺は、隊長の権限を利用して部下の調理したそれを一番に受け取り、神への感謝を忘れずに試食してみる。  ………………だが。 「ブハぁっ! …辛っらぁあぁあああ~っ!」  それは、思いの外に辛かった。両の目と耳からは火が吹き出し、俺はその真っ赤な挽き肉のソースの絡まったスパゲッティを口から勢いよく吐き出してしまう。 「うわっ! ……うごっ…」  いや、そればかりではない。あまりのショックにバランスを崩した俺は、噴き出すボロネーゼの勢いのままに、背後へ転倒すると、そこにあった石に後頭部を強打してしまったのである。  それが、俺の致命傷となった……。  倒れた拍子に皿の残りも横たわる自分の上へとひっくり返り、まるで血肉と血管のような赤いスパゲッティ塗れになりながら、俺はついに最期の時を迎える。  ここまで奇蹟的に死線を潜り抜けて来たというのに、なんと呆気ない人生の終わり方であろうか? 「あれ~? そんなに辛かったですか? マンマの作ってくれるパスタはいつもこんな味なんですけどね」  薄れゆく意識の中、暗く狭まる視界をそちらへ向けると、やはり焼け跡から見つけた赤い唐辛子をその手に、パスタを調理した部下が不思議そうな顔をしている。  しまった……彼は辛い〝アラビアータ〟が名物のフィレンツェ出身者だった……。
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