伊魂(イタマシ)

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 人生の終わりというものはなんとも唐突に、そして、なんとも予想外な原因で訪れるものだ……。  乱暴に表皮を剥ぎ取られ、荒涼とした大地の上、まだ熱い砲弾の破片から白い煙の立ち上る戦場の片隅で、俺は自身より吹き出した真っ赤な粘液と細かな肉片、そして、動脈のような細長い管に彩られた死骸をただじっと見下ろしていた。  それはつい数分前まで俺――アレッサンドロ・ロッシだった人間の死体である。  天使、もしくは悪魔が迎えに来るまでのわずかな待ち時間、俺は自分の抜け殻を見つめながら、己が最期の時を迎えるに到った経緯を振り返ってみる……。  まさか、俺みたいな極めて凡庸な人間が、こんな日常とかけ離れた戦場のど真ん中で、その短い生涯の幕を閉じるとは夢にも思っていなかった。  親父や爺さん、そのまた祖先の典型的なイタリアの男達と同じように、よく飲みよく食べ、大いに恋をして暖かな家庭を作り、老後は大勢の子や孫達に囲まれて、ふかふかのベッドの上で穏やかに天に召されるものと、そう確信していたのだ。  ……だが、この戦争がすべてを狂わせた。  1943年7月9日、連合国軍がシチリア島に上陸し、時の首相ムッソリーニが逮捕・幽閉されると、その9月には後任のピエトロ・バドリオが連合国に降伏。ドイツ、ジャポーネとともにファシズムの枢軸国として戦ってきた我がイタリア王国も終戦の時を迎えるかに思われた。  ところがだ。  バドリオの不審な行動を察知したドイツ軍はすぐさまイタリア半島を占領し、ムッソリーニを救出すると「イタリア社会共和国(RSI)」なる傀儡政権を樹立。北上して来る連合国軍と再び戦闘を開始したのである。  北の方に住んでいた俺は、自動的にその馴染みない新たな祖国の国民になったとうわけだ。  無論、俺とてファシスト党が説く愛国主義にかぶれたことがないではなかったが、正直、今はもう長い戦時下の生活にいい加減うんざりしていて、たとえ敗戦国になろうとも、あのまま終わっていてくれればどれだけよかっただろうに…と、内心密かに思っている。
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