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「――前方のドイツ軍、突破されました~っ!」
まるで緑のない無機質な風景と、乾いた砂埃だけが視界を覆う荒野の戦場に、斥候に出ていた部下の悲鳴にも似た声が耳障りに響き渡る。
どうやら前方を守っていたドイツ軍が敵の猛攻に耐え切れず瓦解したらしい……この防衛線を守る者は、もはや俺達の隊しかいないということだ。
これでも以前から従軍していたため、曹長としてその内の一小隊を任されていた俺は、難しい判断を迫られることとなる。
俺達がここで敵を食い止めねば、友軍の防衛線は大きく後退し、新たにできた祖国も早々滅亡の危機に瀕することであろう。
だが、この兵力差を前に、逃げ出さすことなく勇敢にここで立ち向かったならば、部隊は壊滅、一人残らずここで戦死という可能性だってけして低いものではない。
「いよいよ進退窮まったな……」
もうもうと砂煙を上げ、複数の戦車とともに迫り来る黒山のような連合国軍を遠く望みながら、俺はついに覚悟を決めた。
「よーし! 白旗を上げろーっ! 我が隊はここで降伏をするーっ!」
俺は胸を張って部下達の方を振り返り、声高らかに堂々とそう命令を下した。
これがもし同盟国ジャポーネの軍人ならば、全員玉砕の覚悟で勝ち目のない戦にも身を投じたかもしれないが、俺達はそんなサムライではなく、いたって陽気なラテン系のイタリア人だ。
言い古された言葉だが、「命あってのモノダネ」ってやつである。
たとえ〝ヘタリア〟と呼ばれようと、誰が好き好んで名誉の戦死などするものか。そもそも、親しみのある祖国のためならばいざ知らず、昨日今日できたばかりの、しかも、ムッソリーニが作ったドイツの傀儡国家などに忠義を尽くしてやる義理はない。
また、「戦わない」にしても、退却すれば背後から攻撃されるのは避けられないだろうし、無事に逃げおおせたところで、今やRSI側の戦況は日に日に悪化し、武器弾薬、食料も不足し始めているこの状況にあっては、我が軍が敗れるのも最早、時間の問題である。
無論、熱狂的ファシストやドイツの連中は、今も自分達の勝利を信じて違わないのであろうが、俺の予想に反してこの決定には、隊の誰もが異を唱えようとはしなかった。どうやら皆、口には出さないながらも同じ考えであったらしい。
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