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「撃つな~! 降伏だ~! 降伏するぞ~っ!」
ビリビリと空気を振動させながら砲音が木霊し、あちこちに爆炎と黒煙が熱を帯びて立ち上る中、棒の先に結わえられた眩いばかりの真っ白い旗が、伍長の手によって左右に大きく懸命に振られる。
そして、別の部隊が雄々しく戦場に散り、あるいは虚しく敗走してゆくのを傍らに眺めながら、俺達はどこまでも無抵抗のまま、銃口を向けてにじり寄る連合国軍の兵士に両手を上げた。
最初に接触し、俺達を捕えたのは英国人の部隊だった。ひとしき続いた戦闘がやみ、日が傾くとともに辺りが静けさを取り戻すと、彼らは俺達が築いた陣地をそのまま再利用してキャンプを張り、捕虜である俺達は手を縛られてテントの一つに押し込められた。
不自由で不名誉な捕虜の身であるとはいえ、これでもう、あの野蛮で過酷な殺し合いをしなくてすむ。今はひとまずこんな所に留め置かれているが、夜が明ければ後方のイタリア王国側にある収容所へ移送させられることだろう。そうなれば、ほんとにこの地獄の戦場とも永遠におさらばだ!
まあ、一つ文句があるとすれば、なんと言っても捕まってるのがあの英国の部隊なので、先刻いただいた夕食の味にけっこうな不満があったことぐらいか。
だが、そんな贅沢を言ったら罰が当たる。捕虜収容所まで行けば、懐かしいイタリアの味にもありつけるかもしれない。今はそれを楽しみに待つこととしよう。
…………しかし、そんな俺達のささやかな夢は、その夜、大きく裏切られることとなった。
「敵襲~っ! 敵襲~っ!」
疲労の蓄積した肉体を地べたに横たえ、まさに泥の如く久々に寝入っていると、夜の闇の中に溶け出していた意識がそんな声で呼び起される。
「ドイツ軍だ! ドイツが夜襲を仕掛けて来たぞ~っ!」
だんだんと覚醒してゆく意識の中、自分達は捕虜の身であり、周りが真っ暗なのはここがテントの中だからということを思い出したところで、今度はそう叫ぶ英国兵の声と、けたたましい銃声や爆発音が帆布でできた薄い布越しに外から聞こえてくる。
どうやら、敗走したドイツ軍が早々に反撃の夜襲を仕掛けて来たらしい。
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