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退却する英国軍に置いて行かれた俺達捕虜も、自動的に解放されたってことになるのだろう。結局、もとの鞘に収まったというわけだ。
戦場からおさらばできずに残念ではあるが、まあ、囚われの身ではなくなったのだから、これはこれで良しとしよう。肩身の狭い捕虜生活を送らなくて済むだけでも幸運だと思わねば。
そう気持ちを入れ替えると、俺達は近づいて来るドイツ軍に向け、満面の笑みを浮かべて声を張り上げた。
「おお~い! 同胞だ~! 捕虜にされてたんだ~!」
上げた両手を大きくブンブンと振り回し、けして敵ではないことを懸命に猛アピールする。ここで連合軍と間違えられて撃ち殺されたんじゃ、どうにか助かってきた命が無駄というものだ。
……ところが、その味方であるはずのドイツ軍の方が、むしろ俺達の敵に回ってしまった。
いや、別に俺達を連合軍と見間違えたのではない。じつは昨日の戦闘で、俺達の小隊が無抵抗に降伏したところをバッチリ彼らに見られており、敵前逃亡罪の容疑をかけられたのである。
「貴様ら! それでも我ら気高き枢軸国陣営の同志か! 敵前逃亡は銃殺刑だ。覚悟はできているんだろうな?」
やっと縄を解かれたというのにすぐに再び縛り上げられ、直立不動で胸を張るドイツ人士官から俺達は罵声を浴びせられる。
「違う! 誤解だ! 俺達は一歩も退かず、あの場に踏みとどまって捕虜となったんだ!」
いや、まったくもって誤解など存在しないのだが、このままではほんとに銃殺刑にされかねないので、なんとか誤魔化せないものかと反論してみる。戦いを放棄したのは事実だが逃げもしなかったので、けして嘘は吐いていない。
「フン。そうか。ならば、その一歩も退かぬ雄姿をもう一度見せてもらおうか」
だが、その言い訳がかえって俺達を窮地に陥れた……。
「これは……銃殺刑よりヒドイじゃないか!」
まるで、店頭に吊るされた豚もも肉の塩漬けのように、身動き一つとれぬ無防備な格好で、俺は背後立つ肉屋のオヤジならぬドイツ人士官に対して文句を叫ぶ。
すぐにでも連合国軍が反撃して来ることを彼らは見越して、なんと、俺達を地面に打ち込んだ丸太に縛りつけると、いわゆる〝人間の盾〟というやつに仕立てたのである。
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