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「なあに安心しろ。この格好なら、どこからどう見ても連合国側の捕虜と思われるだろう。友軍に狙い撃ちされるようなことはない……もっとも、やつらが攻撃してくるとなれば、おまえ達だけを避けて砲撃できるかは疑問だけどな」
ゴルゴダの丘の上で十字架にかけられ、今や処刑の時を待つだけの我らを愉快そうに眺め、悪魔の如きドイツ人士官が邪悪にほくそ笑む。
そして、遠く山上の修道院も見えるくらい辺りがすっかり明るくなった頃、案の定、連合国軍は昨夜の報復戦を仕掛けて来た。
…………しかも、戦闘機の編隊で。
バリバリと耳を劈くエンジン音で朝の冷え込んだ空気を震わせ、朝日にキラキラと輝く銀色の飛行物体が高速でこちらへと迫って来る。
「敵襲~っ! 敵襲~っ!」
ドイツ軍は慌てて対空砲やら機銃やらを準備し始めるが、一歩出遅れた感は否めない。空から来るのは想定外だったのであろう。無論、俺もだ。
やがて、飛来した戦闘機は機銃を撃ち続けながら頭上をすり抜けて行き、着弾した地面からは水が跳ねるように土塊と砂煙が一筋の線を大地に引いて舞い上がる。
それも一度や二度ではない。雲霞の如く青空を飛び交う無数の敵機が、戦場を大きなキャンバスに、その乱暴な落書きを休みなく続けるのである。
また、前衛的な画家が絵の具をキャンバスに投げつけるかのように、時折、投下した搭載爆弾が突撃砲やドイツ軍のテントをオレンジの炎と黒い爆炎で塗り潰す。
瞬く間に、辺りは文字通りの〝地獄絵図〟と化した。
今度の今度こそ終わったな……その地獄のど真ん中で身動き一つとれぬ状況の中、俺は心底そう思った。
「神よ! どうかお慈悲を! どうか我らを天の国へお召しください!」
他の者達も思いは同じらしく、うるさい轟音に混じって、そんな祈りを叫ぶ声も方々から聞こえてくる。
天国か……そうだな。せめて、死んだ後ぐらいは地獄でない所へ行きたいものだ……。
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