伊魂(イタマシ)

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 爆音とともに、高速で連続射出される大口径の弾丸がすぐ脇を掠め、舞い上がった土埃と瓦礫、あるいは赤い飛沫と細かい肉塊のようなものが、火薬と油の臭いのする薄暗い周囲の空気を満たす。  非日常的な強過ぎる刺激に、視覚も聴覚も嗅覚も、さらには打ち震える地面と空気によって全身の触覚までもが役に立たなくなる。  地面が撃たれてるのか誰か人間が撃たれているのか? 他の者が撃たれているのか自分自身が撃たれているのか? その区別すらも最早つかなくなっている。  五感を奪われ、外の世界と自分の内なる世界との境界線も曖昧となる中、俺は〝俺〟という人間をなんとか現世に繋ぎ留めていた意識という手綱を、まるで深い微睡みにでも落ちていくかのように、ゆっくり、だんだんと失っていった…………。  結論から言おう。  俺は……俺達はそれでもまだ生きていた。  ふと目を覚ませば、ドイツ軍のテントも突撃砲も焼け残りのガラクタと化し、すっかり丸坊主となったこの微高地の上に俺達だけが取り残されていた。  方々にドイツ軍兵士だったもの(・・・・・)もちらほらと残されてはいるが、まあ、言わずもがな、もう生きた人ではない(・・・・・・・・)。  機体のマークからして、あれはアメリカ軍の戦闘機だったと思う。今は亡き(・・・・)あのドイツ人士官は「おまえ達だけを避けて砲撃できるかは疑問だ」などとのたまわっていたが、そのウルトラCをやってのけるほどの凄腕エースパイロットだったのか、あるいはやはり神が救いの手を差し伸べたもうたものだろうか、ともかくもあの激しい攻撃の中、奇蹟的にも俺達だけが全く被害をこうむらずにすんだのである。  しかも、絶妙な塩梅で爆風に吹き飛ばされた結果、俺達を囚われの身としていた縄と丸太からもうまいこと解放されている。 「奇蹟だ……神さま、感謝します! これからは毎日祈りを捧げます! 日曜のミサにも必ず行きます!」  この、まさに〝奇蹟〟としか呼べないような展開に、俺達は一人、また一人と起き上がると、皆、涙が溢れるほど青く澄み切った大空を仰いで神に祈りを捧げた。
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