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美雨の部屋にスマホと財布を置いていったのは、遊びに来ていた恋人の雄大だった。
流通大手に就職した雄大とは、学生の頃よりも会う回数が減っていた。会えない理由はさまざまだった。会社の研修や休日出勤、同期社員同士の集まり。
特に親しい同期数名と撮った写真を見せてもらったことがある。
飲み会の最後に撮ったというその写真は、頬を紅潮させた男女が弾けるような笑顔で写っていた。
雄大の隣に、女子社員がいた。雄大は女子社員に体を寄せていた。同期同士の親愛を示すには不必要なくらいに。
美雨の中で、小さな疑念の粒が生まれた。その女子社員の話を聞くたびに疑念は少しずつ大きくなった。ある時を境に女子社員の話を聞く回数が少なくなると、疑念は消えるどころかますます大きくなった。
そして、大きくなりすぎた疑念はとうとう堪えきれなくなって噴出した。
雄大は誤解だと言った。美雨は聞く耳を持たなかった。
美雨の口からは礫のような罵りの言葉が次から次へと飛び出した。目からは涙が溢れ、頬を伝って顎に達し、水滴がぽとりと床に落ちた。
雄大は「頭を冷やしてくる」と言い残して部屋を出て行った。
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