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夕立
積乱雲の中で少しずつ大きく重たくなっていた水の粒が、とうとう堪えきれなくなって最初の雨粒となって落ちていく。
雨は屋根を打ち、木の葉の上で跳ね返り、アスファルトで踊る。地面の窪みで水たまりになり、わずかな斜面を流れて側溝に注ぎ込む。辺りは湿った土の匂いに満たされる。
雨はアパートのベランダに干されたままの洗濯物にも降りかかる。昼間の太陽が奪った水分を洗濯物に返すように染みこんでいく。
窓が開き、二十歳をいくらか過ぎた若い女が顔を出す。
雨を見た女は慌てて手を伸ばし、洗濯物を部屋の中へ取り込む。
少し湿った洗濯物を抱えた女が、テーブルの上にあるスマホに目をやる。
テーブルの上には二つのスマホが並んでいる。一つはピンク色のケースのもの。もう一つは黒くて傷だらけ。傷だらけのスマホの隣には、黒い革の財布が置かれている。
窓の外はいつの間にかバケツをひっくり返したような雨になっている。いつもならこの窓から見えているコンビニの看板が、雨に煙ってよく見えない。
あんな奴、ずぶ濡れになればいい。女ーー美雨はそう思った。
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