出入り禁止

1/1
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

出入り禁止

 かなり面倒なお客様がいらっしゃいます。  曽我さんとおっしゃって、建設機械のレンタル会社にお勤めです。  彼がどのように面倒かと言いますと、例えば閉店時間になって女性たちが帰ろうとすると、 「客を残して帰る店なんか聞いたことがない」  とイヤミを言いますし、  ご接待されているお客様のカラオケ採点が悪い時は、 「だから点数の調節出来るカラオケに変えてくれって頼んだんだよ。怒らせてしまったじゃないか」  こちらのせいにして責めます。  外国人を接待なさるわけでもないのに、英語をしゃべれる女性がいないことにさえケチをつけます。  とにかく口やかましく、そんなに気にいらないなら来なきゃいいのにと、ついこちらも開き直ってしまうのですが、何故か見えるのです。  先日のことです。  「店が終わったら皆で寿司屋に行こうよ」  と女性たちを誘っていたのですが、 「朝が早いので…」 「最終に乗り遅れるので…」  彼女らはそそくさと帰ってしまいました。  曽我さんは女性たちに嫌われているのを知らなかったようです。  全員にふられた彼は、 「俺だって朝早いよ」 「ここの女どもは客をなめてんな」  ふて腐れ、あげくには、 「ママの教育が悪いからだよ」  と言いがかりをつけ始めました。  腹が立つよりも面倒くさくて、 「それならもう当店には見えないで下さい。他の店を探して下さい」  出入り禁止を口にしてしまいました。    一週間後、曽我さんの部下が菓子折りを持って見えました。  あの時同席していた課長代理です。   「先日はすみませんでした」  謝罪した後に、 「うちの曽我を許してもらえませんか? あんなことを言っても曽我はこちらの店が大好きなんですよ。曽我の得意先もこちらの店を気に入っているし、何とか…」  必死に頼まれても、曽我さんのあの悪態を思うと首を縦に振れません。 「うちの会社は弱小だけど大手には負けない」  は、曽我さんの口癖です。  会社を背負っているとも聞かされましたし、だからこそ当店も後押しして差し上げたいと、恩着せがましいようですが、ご飲食代も考慮していた次第です。  それなのに…という私の残念さがわかりますか、曽我さん?  自業自得です。  勉強し直して下さい。     偉そうですみませんが、それまで出禁を解除することは出来ません。                
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!