新規開拓

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新規開拓

 営業中、お隣のビルのママに怒鳴り込まれました。  女優のかたせ梨乃さんに似た女性が、胸の大きく開いたドレスを着て現れたと思ったら、 「ママは、おられますか!」 「…私ですが」  「うちのお客さん、横取りするのやめてくれますか!」  ものすごい形相で詰め寄られました。  何のことやらさっぱりわからず、奥のソファ席に座ってもらって話を聞きました。  年明け早々、 「…新しい店を開拓したいのでこちらの店で飲ませてくれませんか?」  と、三人の男性が入って来られました。    名刺も差し出してくれ、それぞれ感じも良かったのでOKしたのですが、実は出勤途中の当店の女性を見初めてついて来たとのことでした。 「そうですよ、その三人ですよ!その日、うちの店に来る予定だったんですよ!」  お隣のママは終始いきり立っていました。  銀座において客の一組は貴重です。  飲食代の単価が高いので、当然売り上げに響きますし、その客から枝葉が延びることもままあります。  独立する前働いていたクラブでは、客を巡ってホステス達がしょっちゅう争っていました。  取っ組み合いも珍しくなく、男性スタッフが羽交い締めで止めているのを何度か目にしました。  お客は飽きっぽいと言いますか、浮気性と言いますか、とかく新しい店に行きたがります。 「ママ、どっかいい店紹介してよ」  たびたび言われますが、絶対に紹介しません。  心が狭いと思われても、不景気極まりない昨今、たとえ一組でも失いたくないのはお隣のビルのママと同じです。  同業者同士、気まずいままも困りものなので、菓子折りを持って出向いたのですが受け取ってもらえず、運悪く(?)路上で出会ってしまった時は思いきりにらまれました。  騒動の場に居合わせたお客様は、 「どこの店で飲もうが客の勝手だよ。気にすることないよ」  慰めて下さいましたが気は晴れません。  取りあえずは、かの三名様の以後のご利用をお断りして、ほとぼりが冷めるのを待とうと思います。  それにしても迫力のあるママでした。  三十代半ば位でしたが、 「会員制のくせに、なんでフリーの客入れてんのよ!」  帰り際のあの捨てぜりふがまだ耳に残っています。    先日、韓流ドラマを見ていたら、かたせ梨乃さんの育毛剤のCMが流れたので、あわてて早送りしました。
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