大遅刻

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 僕が求めていた声がした。振り返ると、彼女はけろりと傘をさして立っていた。  「君……! ずっと待っていてくれたのかい?」  「当たり前ですよ。貴方はきっと来てくれると思っていましたから。あんまり遅いので、隠れて意地悪しちゃいました」  彼女は悪戯っぽく微笑むと、僕の頭上に傘をさした。その様子が天使のように可愛らしいので、憂鬱な気分は全て吹き飛んでしまう。  「君は本当に優しいね……。待たせて済まなかった。そして、待っていてくれてありがとう」  「……貴方も優しい人です」  彼女の言葉に、僕は目を見開いた。予想外の言葉に心拍数が上がる。  「ぼ、僕はそんな……」  「私にも、みんなにも、同じように優しい貴方が好きです」  彼女が曇りのない目で見つめる。そのとき、かつて言われた言葉が蘇ってきた。  ──私が貴方を助けてあげます。  あのときと同じ目をしている。  こんな僕のことを好きだと言ってくれるのが堪らなく嬉しい。  優柔不断で、メンタルが弱くて、君の願い一つ叶えてあげられないような、どうしようもない僕を好きだと言ってくれる。  だったら僕は、  「君のヒーローになりたい」  誰彼構わず人助けをするのはきっと辞められないけれど、彼女にとって一番のヒーローでありたいと思う。  僕の飾らない言葉を、何も言わずに受け止めてくれる彼女の笑顔が素敵だった。  「さて、どこか行きたい所とかありますか? 私は雨の中散歩でも良いですけど」  「それも悪くないね。のんびり歩き回ろうか」 彼女が頷くと、一つの傘の中二人で歩き出した。  思えば、こうして彼女と一緒にいられるのは雨のおかげかもしれない。何かと縁があって、僕と彼女の距離を縮める手助けをしてくれる。  そう考えたら少しだけ、雨が嫌いではなくなった。
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