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6階の君、4階の彼女
○●○●○
私の住む1Rマンションの6階に住む彼。
名前も知らなければ、部屋の番号も知らない。
だから私は勝手に「6階の君」と呼んでいる。
そんな私達の共通点は出勤時間と帰宅時間。
何かと重なる事が多く、何となくお互いに挨拶を交わすようになった。
真面目なサラリーマン風の彼と、
何処にでもいる普通のOLな私。
今日も寄り道もせず帰宅するとやはりエレベーターホールで一緒になった。
互いに、
「こんばんは」
と言ってエレベーターが一階に降りてくるまで暫し待つ。
いつも先に彼がエレベーターに乗り込み開閉ボタンを押してくれるので私が後から乗ることになる。
なのでエレベーターが降りてくるまでの僅かな間、私は彼のほんの少し後ろに立ちながら彼を観察する癖がついていた。
短く切りそろえられた黒髪は清潔さを表していて、それに似合う優しい笑顔と声がとても印象的な人だなと思っていた。
もっと、彼を知りたいな……
初めはエレベーターで会えただけで今日という日がラッキーデーの様に思えていたのに、人はやはり欲深い生き物だなと少し反省。
こんな素敵な人、きっと彼女がいるだろう。彼に似合う可愛い彼女が。
エレベーターの到着により私の観察タイムは否応無しに打ち切られる。
乗り込むと直ぐに、彼は6階を押しドアを開いてくれる、そして続いて乗り込んだ私は4階を押す。
いつも通り。
それでも、いつか4階を通り越して6階で一緒に降りる日が来るだろうか、という淡い想いが溢れる。
どこまでも貪欲だな私。
自分のおめでたい脳内に呆れつつ溜息を飲み込む。
あっという間に4階に着くと彼はいつもの様に【開】のボタンを押してくれる。
「どうぞ」
いつもの優しい笑顔と声がその一瞬だけとしても私に向けられる。
「ありがとうございます。」
と言って降りようとする私。
今日も私は彼より先に4階で降りる。
そう、それは当たり前。
けれどーー
いつか、私も6階からの景色を見る日は来るのだろうか?
それくらい思ってもいいよね。
思うだけなら。
思うだけしか……
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