89人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
前に一度だけ火を貸してほしいと頼まれた事がある。
俺はこんな事もあろうかといつも持ち歩いている、いかにも格好つけたライターを差し出す。
「ありがと。重いわね。100円のライターの方が軽くていいわ。」
返す時にそう言われた俺は本気でへこみ、その日の帰りにコンビニで100円ライターを大量に買い込んだ。
結局、俺なんて全く相手にされてないんだよな。
そりゃそうだ。
相手はその仕事ぶりを高く評価され入社5年目にして異例のスピードで若くして課長となった人だ。
しかも見た目も申し分ない。
それに引き換え俺はしがない平社員。
歳も俺より4つ上なだけなのに。
あーあ、もういいか?
煙草と一緒にこの恋も
やめる?
やめない?
結局、俺はどちらもやめる事にした。
煙草も彼女への思いも。
けれどどこまでも女々しい俺は最後にと思って喫煙ルームに行った。
すると、あの人がいた。課長だ。
たまたま他に誰もいなかった事もあり、もうこれが最後だろうとラスト一本の煙草に火をつけながら俺は思い切って課長に話し掛けた。
「俺、煙草やめようと思うんですよね。」
「そう。」
と気だるそうに細い煙を吐き出しながら彼女は言う。
まっ、こんなもんだよな。
想定内だわ。
俺が煙草やめようがやめまいがこの人には関係ねぇよな。
最初のコメントを投稿しよう!