歯医者と敗者

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◇◆◇  ここは私の職場である某有名デパートの眼鏡売り場。 今日も伊達メガネを掛けて売り場に立つ私。 私、実は視力いいんだよね。 だけどいくら視力が良くても、反対に視力が悪くてコンタクトレンズだったとしても眼鏡売り場の店員は規則で眼鏡を必ず着用することになっている。 ファッション業界の店員がそれぞれのショップのお洋服を身に着けるのと同じだ。 それにしても今日も暇だな。 最近、近くにお手頃価格で作れるメガネショップが出来てからというもの、ずっと暇なんだよねぇ。 「あの…」 いけないっ!ボーッとしてた。突然掛かった声に慌てて営業スマイルを貼り付け対応する。 「はい、いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」 「ええ、そうです。」 ぱっと見、とても紳士的な身なりの男性が言う。しかも爽やかな感じで誰かに似てるような……今見てる連ドラの俳優に似てる? 誰に似ているかは後にしてと、 「では先に視力からお調べしますか?それともフレームを先に選んで頂いてもーーー」 「いえ、もう見つけましたので。」 「あ、えっと…どちらのフレームで?」 て言うかこの人…… 「いえ、眼鏡を掛けているあなたを見たことがなかったので少し戸惑ったけど……」 「ん?」 なに?なんの話?確かに今は伊達メガネ掛けてるけれど…… 「まだ分かりませんか?」 と呆れながら目の前の男性はスーツの胸ポケから眼鏡を出して掛けたそして、 右手で口を覆った。 「……………………ああっ!!」 右手で口を覆ったその人の顔を私は知っていたーーー どこかの俳優に似たイケメンじゃなくて…… そう、私が通っていた歯医者さんだ。
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