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◇◆◇
「先生…、今まで私がアプローチしてもずっと無視してたのにどうして?あの時、どうしてわざわざ職場まで来てくれたの?」
「どうしてって…、さすがに歯の治療に来ている患者に医者が手を出す訳にはいかないでしょ?だからさり気なく君の職場を聞き出しこの時が来るのを待ってました。」
私の職場に来てくれた日から何度めかの食事の後に初めて寄った彼の部屋で私を抱き寄せ先生は言う。
いつもは歯科器具をもつ繊細そうな指先はさっきから私の頬を何度も優しくなぞっている。
「だけど、もう君は僕の患者じゃない。」
そう言うと首を少し傾け、私の唇を奪う。啄むような甘いキスが繰り返される。
「マスクだって何度お願いしても絶対に外さなかったのに…」
唇が離れた隙にせめてもの抵抗をと訴えかけると先生はニヤリと笑う。
「ああ、それはーーーマスクを付けておかないと治療中の君にうっかりこういう事をしてしまいそうだったので。」
悪びれることもなく、しれっと言ってはまた唇を重ねてくる。けれど触れるか触れないかのところで止めて彼が言う。
「知ってる?口の中を知り尽くした歯科医のキスは……」
「えっ…」って言った瞬間に先生の舌があっという間に私の口内に深く入り込む。
後は言葉にならなかった。
彼がなんて言おうとしたのかその言葉の続きは聞けなかったけれど直ぐに解った。
だって…
彼のキス、たまらない…
たちまち心も体も開かされていく。
ああ、私やっぱり彼に惨敗だ。
されるがままだ。
彼にいとも簡単に支配され敗者である事を素直に認めた私は彼の首に腕を絡めるとそのまま身を委ねた。
【歯医者と敗者】
終
※ダジャレやん(;´∀`)
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