6階の君、4階の彼女

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 4階から乗り込んできたのは俺と同じ歳くらいの見るからにOL風の彼女だった。 だけど、少し俯きがちに「ありがとうございます。」とドアを開けてる俺に声を掛けて乗った彼女の笑顔に俺は生まれて初めての感情を抱いた。 ああ、これが一目惚れってやつ? 極力、営業スマイルを崩さないよう意識を集中する。 寝坊のせいでいつもより髪のセットが7割仕上がりなのが少々マイナス要因ではあるけれどそこは紳士的な振る舞いでカバーすべし。 「先にどうぞ。」 一階に着くと俺は開閉ボタンを押し、彼女を誘導する。 「ありがとうございます。」 またも丁寧に頭を下げると彼女はエレベーターから先に降りていった。 駅に向かうのか? もしや、同じ方面の電車とか? 後をつけてみようかという邪念が俺の中で芽生え始める。 彼女の少し後を俺は歩き出した。 そう、これは後をつけているんじゃない。たまたま向かう方向が同じなだけ。 が、そんな言い訳も必要なく彼女はすぐ近くの地下鉄入り口の階段を降りていった。 俺はこの先、10分弱歩く私鉄だ。 明日も会えるだろうか?
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