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駐車場に着いても、まだ田澤春樹は前を向いたままだった。
「先に降りるわよ。」と私が助手席のドアを開けようとした時、
「待って。」
田澤春樹が漸くこちらを見て言った。
睫毛の長い綺麗な二重瞼のその瞳で私を見据えている。
私はいつだって彼のこの目力に負けそうになる。
「貴女の聖なる夜をーーー僕に貰えませんか。」
そう言うと田澤春樹は顔まで真っ赤にしながら、私の頬に手を添え
ゆっくりと
額にキスをした。
えっ…
「な、なんで額なのよ。そんな事されたら…」
「されたら?」
少し意地悪顔で聞き返す田澤春樹。
さっきまで真っ赤な顔をしてた癖に。
立場逆転。今は私の頬に熱が集まっているのが分かる。
営業成績が優秀な彼は私の微妙な表情の変化をも読み取りそして確信したはずだ。
「そんな事されたら、どうするんですか?」
そう言いながらも頬に手は添えられたままで顔が再び近付いてくる。
降参だな。
「そんな事をされたら目を、閉じ…」
言葉の続きは田澤春樹が取ってしまった。
彼の唇で…。
いつだって控えめな田澤春樹の強引なキスを受けながら、
ーーー今日のドラマは諦めよう
そう思うと彼のスーツをキュッと掴んだ。
と同時に長くなりそうな今夜に胸が高鳴った。
終
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