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しかし、一度会い出すと続くもので帰宅時間にもよく会うことがあった。
自然にどちらからともなく挨拶するようになり俺はまるで思春期の男子のようにその一瞬の時間に胸をときめかせた。
それまで朝もダラダラと起きていたのに早く起きてはいつ会っても良いように完璧な支度を整え出掛けたり、
仕事もなんだかんだと残業していたのに出来る限り早く終わらせなんとかひと目会えたらと涙ぐましい努力をしていた。
そんな状態が続いていてこれといった進展もなく…そして今日もまたエレベーターホールにて出会った彼女に爽やかな笑顔を貼り付け紳士的に誘導する。
「どうぞ」って。
彼女がエレベーターに乗り込む時に甘い香りが俺の鼻を掠める。
あー、もう思い切って声を掛けるか?
いや、下手に声を掛けて怖がらせてドン引きでもされようものなら折角、越してきたとこなのにまた家探ししなくては。
それに付き合ってる男くらいいるんじゃないのか?
だけどーー
だけどさ、
何もアクション起こさず悶々とした日々をこのまま続けていくのか?
4階に上がってくエレベーターと同じ勢いで俺の脳内の血流もグングン上がる。
そして、いつもの様に4階で扉が開き彼女は降りていく。
当たり前だ。
彼女は「4階の彼女」なのだから。
きっと、このまま彼女と俺の住む6階へ行く日なんて来ないだろう。
俺は今日も彼女が降りていく姿を見つめる。
振り向けって女々しいことを思いながら……
それでいいんだ。
それで、
それで、いいんだよな?
いいのか、俺は!
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