二人の距離感

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 突然の質問……ともいえないかもしれない。雪乃が過去の恋人たちからそれほど優しい扱いを受けてこなかったことは、振る舞いの端々から察せられてもおかしくはないだろう。 「……そうですね。氷室課長のいういい恋愛がどういうものか分かりませんけど……あまり、いい思い出はないです。いつも浮気されて終わるので」  さらりと言ってしまってから、しまったと思う。呆れられてしまっただろうか。男に軽んじられるような価値のない女だと思われたかもしれない。  そっと鷹瑛の様子をうかがってみるも、雪乃の位置からでは彼の頬しか見えない。 「そうか……」  抑揚のないその声からは、どんな感情も読み取れなかった。  ああ、そうだ。  静まり返った部屋の中で広い背中を見つめながら、雪乃は一つのことに気がついた。なにごとも完璧な、優秀すぎる彼の欠点。  完璧すぎて、感情が読めないんだ……。  だから余計に、不安を感じてしまう。
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