決壊

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決壊

 ◇ ◇ ◇  進藤と待ち合わせている社食に向かう途中、見知った影がちらりと視界に入った気がして雪乃は振り向いた。自社ビルのエントランスは吹き抜けになっていて、雪乃のいる三階の廊下からは玄関ホールを見渡せる。  手すりから顔をのぞかせて見下ろすと、会社を出入りするたくさんの人が行き来していた。その中に、飛び抜けて姿勢が美しく目を引く男性がいる。鷹瑛だ。  これほど離れていてもすぐに見つけてしまうほど、彼の存在は雪乃の心の深いところに入り込んでいる。その事実を、今はどう受けとめていいのかわからない。先日聞いてしまった会話のせいだった。  ホールにいる彼は立ち話をしている。相手は市川だ。  雪乃の胸がずきりと痛んだ。  並んでいるところを見ると、二人がいかにお似合いかがよく分かる。  市川は容姿が整っているだけではなくて、仕事をがつがつとこなし、人あたりもいい。後輩の尊敬を集める有能さは鷹瑛と通じるものがある。きっと、考え方とか感覚とか積み重ねてきた経験とか、雪乃には踏み込めない部分を鷹瑛と共有できるだろう。そのうえ可愛げがあって、自信がある。     
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