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二人の距離感
◆ ◆ ◆
「氷室課長、どうぞ」
ワイングラスをテーブルに差し出すすんなりとした手が、ほんのりと赤く色づいていることに気がついて、鷹瑛は思わず手を伸ばした。
触れようとした指先は、すんでのところでするりと逃げてしまい、鷹瑛はその主に視線を向けた。
オーダーした赤ワインをウェイターから受け取り、鷹瑛の前まで届けてくれた雪乃は、これで用は済んだとばかりにもう他所へ意識を移している。
その瞳が不自然に泳ぐのを目ざとく見つけた鷹瑛は、またかとひそかに嘆息する。彼女との間に置かれるあからさまな距離に勘づいたのはいつごろだっただろうか。
優雅にワイングラスを傾けながら、鷹瑛の思考は別のところを漂う。
社内の忘年会の二次会にと流れてきたダイニングバーは、上質なワインを手頃な値段で提供しており、知る人ぞ知る名店だ。しかし、今の鷹瑛はそれを純粋に楽しめるような気分ではなかった。
常になく物憂げな空気を醸す鷹瑛の様子に、周囲に座す女性の同僚たちからは、ちらちらと熱の篭った視線が投げかけられる。
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