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西の人たちは、ぼろ布団でも人間の死骸でも平気で投げ込むので、昔は滑らかな泥色で海に流れ込んでいた川は、あっと言う間に彼らの住む河口あたりでどろりと濁り澱み、たえずぼこぼこと噴きあがるメタンガスの腐臭を放つようになった。激しいスコールと満潮で水かさが増えた時だけはさすがのヘドロもわずかに移動したけれど、二三日も立つと元どおりだった。汚物が滞積した河口の澱みには、蚊やハエが盛大に繁殖した。コレラやチフス、デンゲ熱が一定の季節になると猛威を奮った。
西の地域には、出生証明書も選挙権も苗字もない、お腹にうじゃうじゃ虫のいる人たちがぎっしり暮らしていた。いつも誰かが病気で、毎日誰かが死んでいたし、死ぬ人の何倍もの数で、毎日のように栄養失調の赤ん坊が生まれていた。
島の金持ち連中は、西側の住人にはいささかの関心もなかった。あるとしたら、いつか風の強い日に誰かに言いつけて、あのスラムを丸ごと焼き払う事だけだった。
ある夏、ホセが、綺麗な小鳥をくれた。
森の巣から落ちてぴいぴい泣いていたラピスラズリ色の雛は、柔らかなかしわの葉っぱでくるまれて、目を閉じたままぐったりしていた。
小鳥は何を食べるのか、乳母もホセも知らなかった。小さなくちばしにお菓子やチーズを近付けても、小鳥は何も食べなかった。ホセが全部平らげてしまった。
あくる日も、小鳥はお水も飲まず、何も食べなかった。
小鳥は私の枕で目を閉じて静かにしていた。でも濃い青の、柔らかな羽が生えかけた小さな体には、手のひらに伝わる優しい強い温みがあった。
午後、私は思い余って父を呼びに行った。父は涼しい風の渡るパティオで、いつものようにご本を読んでおられた。
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