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「・・・ライオンの家族は、忙しいのはメスだけで、オスは何もしません。美しいたてがみをサバンナの風に揺らして、お昼寝ばかりしています。ライオンには敵がいないからです・・・・・。」
父の両腕に囲まれた、マニラ葉巻のくゆる空間に、湯気を立てるミルク入りのお茶と、父の整髪料の匂いがしていた。
それは私の大好きな、たぶんこの世で一番安心できる場所だった。私は、頭の上を流れる、父の柔らかな声をうっとりと聞きながら、何時の間にか眠ってしまった。
カウチで目が覚めた時はもう遅い午後で、傍には乳母だけがいた。
「リタ、お父さまは?」
「存じません」
はっと小鳥の事を思い出した。
あわてて部屋に戻ると、枕の上に小鳥はいなかった。私は癇癪をたてて、「小鳥をどうしたの」と、わあわあ泣き出した。
乳母は大慌てで私の手を引いて、城中の女中に「小鳥を知らないか」と訪ねて回った。誰も知らなかった。もっとも彼女達は何事であれ、「知らない」としか言わない。
飛べない小鳥が自分で逃げ出すはずはない、「多分ホセが忍び込んで、持って行ったのだろう」と乳母が宥めた。
「イビーちゃま、きっとホセが、元気にして返してくれますよ」
私は納得して泣き止んだ。そして階下のテラスへ行った。
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